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    企業の失敗
   
  国分に四十八連隊の出けたとき、営所の用地に土地の買上げられ、うちが一番多かったけん、 高う売れてお金の入ったつは良かったばってん、取り巻きの世話人達が、また他の土地ば買わ するやら、売らするやらして、その間で土地てんお金てんの幽霊になってどこさんか消えて行 きよったげなたい。

  初代の四十八連隊長の前田隆礼大佐さんな、軍隊と土地の者な仲良うせにゃんち、ほんに地 方のこつにまでよう世話焼く人じゃったげな。その人のすすめで、うちも営所ん前通りに善真 館ち云う宿屋ば、営所相手に建て、人に経営させたりしよったたい。馬匹会社も前田さんのすゝ めもあったけんち云うこつじゃった。

お父っつあんが杜長で、山川村の赤司んが重役じゃったげなが、もう一人の実務とりょる重役 が、いよいよ会社が負債で首の廻らんごつなった時、自分の財産なみんな人の物に名義替えし て仕舞うとったげなけん、お父っつぁんと赤司さんが責任上払わにゃならんごつなって、結局 お父っつぁんが一番よけい負債ば背負い込みなさったたい。

  お祖父っつぁんのおかくるる頃、馬匹会杜てん何てんの後始末に、色々なこつで都合ん悪る かけん、隠居のお祖父っつぁん夫婦が分家してもとからの家に居んなさって、当主のお父っつぁ ん夫婦の住所ば西原にしてあったこつのあった。名儀だけたい……。

西原にゃ箪笥ば一つ、何じゃりお父っつぁんの物と、おっ母さんのもんば少し入れてあっただ けで。お父っつぁんでん、おっ母さんでん、今までの家にそんなり居んなさったたい。いっと きで、また帳面向きも、もとの家に帰んなさった。


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