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    椿 事
   
  まあだ恒が家に居って、アヤが高等小学に行きょる頃じゃったたい。新町辺の宿屋から着替え 持って来るごつち、お父っちゃまから使ん来たけん恒に持たせてやった。

  うちゃいっちょーん知らじやったりゃ、お父っちゃまと、井上さんち云う人と金島銀行関係の 人と飲うだ揚句、福岡の菊人形見に行くち云うこつになったげなたい。井上さんちゃ、うちが 屋敷抵当にして、金島銀行からお金借るとの保証人になって貰うとった人じゃったたい。

三人と芸者二人てろ三人てろ連んのうて、日吉町交叉点のにきに藤島ち自動車屋さんのあった とこの自動車に乗って、福岡に行く迄はよかったばってん、雑餉隈の手前ん方てろで、道の曲っ とっとに街灯の具合でよう分らじゃったてろで、深田んごたるとこに車の曲りそこのうて突っ 込うで、芸者さん一人と、運転しよった藤島ん息子じょとが、泥ん中に突込うで二人も死んで しもたたい。

そりだけでん、そんころ交通事故の少なかころで大事件のつに、そり聞いてかけつけござる藤 島ん両親の車んまたひっくり返って、両親とも死なっしゃったてろ、ち云うとんでもなか大迷 惑なこつん起っとったたい。世間の話の種もよかとこで、すったりじゃったたい。

  井上さんな、親からさんざんおごられらっしゃって、銀行ん人も銀行からやら何やらおごられ らっしゃったそうなばってん、お父っちゃまは、誰りん叱る者もなかもんじゃけん、どんこん ならんもん。そげなとこに芸者連れて遊び行く金んあんなら、返して貰わにゃんち借銭取りゃ 押しかくるし、人から悪う云わるるし、ほんにほんにち思うたたい。

  そりゃ負債のこつてんの話合いてん何てんで、好き好うで遊び廻りょんなさったつじゃなかちゃ 思うばってん、世間なそげにゃ思わんもん。恒は恒で、中学校で、お前んおやぢじゃろち云わ れて、どんこん気の毒うして、ほかの真藤ち云うて逃げたげなたい。

アヤは案外、そうたいちうてケロッとしとったふうじゃん、鉱山てん何てんしよりゃ芸者連れ て遊うだりもせにゃんち、伊東さんのお父っつぁんな云うてじゃったげなちどん云うとるもん。 ばってん、かねてがお父っちゃまば信用しとらん風じゃったが、そり以後はなお、お父っちゃ まの云うこつば聞かんごつなってしもたたい。

  そげなこつで又お父っちゃまの人気の落つるばっかりじゃったたい。真面目にコッコッやっと んなさるなら、失うなったにしろ、人のほんに失うなりょっとこに養婿に来てち、同情はしたっ ちゃ悪うわ云わじゃっつろばってん、大っかこつばっかり云うて、呑うで遊うで、まるでお父っ ちゃま一人で失うなしなさったごつしか人は云よらじゃったたい。ほんなこつ云や、お父っちゃ まも気の毒か立場じゃったもん。



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