SNK >> デジタルアーカイブ >> 初手物語


    遊び場、遊び
   
  子供の遊び場は、大方お宮の境内てん絵馬堂てんじゃった。始め絵馬堂はなかったけん、 神殿と拝殿で遊びょった。

  野中の王子宮さんの建直ったとき、古か絵馬堂ば買うて高皇さんに建てたったい。そりか ら子供ん遊び場の絵馬堂まで広うなったたい。あたしどんも高皇宮で遊びよった。絵馬堂の 梁にまで登って鬼ごてんなんてんしよったたい。お手玉てん、ねこげー(ねこ貝)でおはじき したりしょった。ねこげーはガーシャンち云よった。何でじゃったじゃり。手毬も、板敷ば ドンドン云はせてつきよった。

  手巻手毬や、初めすこし綿ば丸めて糸ばしっかり巻きつけて、それにまた綿かぶせて、そ りに糸ばまたしっかり巻いて、何重にでんそげんして巻いて行くとたい。いきなり太う綿ば 丸めて巻いたっちゃ高う上がらんもん。半干あがりの"いもがら"(里いもの葉柄)ばきりきり 丸めて、外がわに綿かぶせて、糸ばしっかり巻いてん、よう上がるもん。

仕上げにゃ色糸巻いて亀甲形てん、麻の葉形てん、笹の葉格子てん、美しう巻き上ぐったい。 お正月前にお正月手毬によう作りょった。誰んとはどりしこ上ったちうふうで、一つぽーん とついて自分の身体ば、きりーっと廻して、毬の落てて来る間に、余計廻っとが良かつで、 人が三べん廻るとに自分が二へんしか廻りきらんと"一コー負かさるる"もん。そりばまたど んどん廻って負ば返して行かにゃんたい。

小学生頃には赤てん青てんの色で絵ば描いたゴム手毬の博多あたりにゃ出とりょった。ゴム 手毬ばひとつボーンちつくと、落ちて来るまでに三べんか四へんな廻りょった。

  手まりも、お手玉も、そげな風でめんめんで作るたい。"男ん子どんも、今のごつなんでん かんでん作って仕舞うてあって、組立つるだけてんちそげなこつはなかった。

  工夫して作りよった様子じゃん。凧はひごから作って紙張って作りょったたい。凧の尾の 長か短かでトンボ返りするてろで大ごつしょったごたる。独楽でんなんでん、よう廻るごつ 根ば色々工夫してすげ替えたりしょったたい。そりゃ恒どんが子供の時までもそげんじゃっ たたい。

  高皇宮の絵馬堂で、よう遊びよった遊びに、親になった子供が一人絵馬堂の板壁にひっつ いて立っとるたい、他の子供達や一列に手つないで、その親ば半月形に囲むたい。そして、" どうとろ、子とろ、どの子がよいか"ち歌いながら半月形の輪ば親のとこまでせばめて行くと、 親が"この子がよいぞ"ち云うて、自分のよか子ば一人引張って、自分の横に立たするたい。

そすと手つないどる子供どんが"何を食わせて育つるか"ち歌うて云うけん、親は"米んめし、 だこ汁"てん"粟んめし、だご汁"てん"米んめし、さかな"てん自分の口から出て来るこつば歌 うて云うたい。そりが面白かもん、どげんしたっちゃ、自分達んほんな暮しの食物てん、そ れ近かもんば云うて仕舞うもん、よか食べもんば云うと、取っとる子ばそのまま取るこつん 出来るばってん、粟んめしだご汁てん、米んめしだご汁、どこじゃ、手つないどるとどんが" そりゃばーち、ばーちよ"ち云うて今まで親がそばに引き寄せとった子ば取戻して、また手つ ないで半月形になって親から遠のいて行くたい。

どこでどげんしてよか食べ物とわるか食物の、区別ばつけとったじゃり、今じゃ忘れてしもうた。

  針打ちしょった。半紙の四っいっちよか、三っいっちよぐらいの大きさで、針打紙ち有っ たたい。和紙じゃつつろ。お正月後先頃、其辺の店にどん出とりょった。子供向けのお年玉 用にやり取りしよったごたる。そっで子供どんな、お正月頃は、もろたり買うたりでみんな もっとりよった。あたしも、もろたり買うてもろたりで、よかしこおばやいに預けてなをし(納 し)てもろとった。

  其紙ばどりしこか重ねて二っ折りにしたつば、半分ばっかりこーのぞくごつ、ふところに 入れて、胸突き出して、うでぶつくらどんしてよか気持で高皇宮の絵馬堂さん行って、みん なと針打ちばしょったたい。

  真中にめんめん何枚づつか出し合うた紙ば重ねて置いて、五六寸の長さに糸ば刺した針の 先ば口にくわえて、左手に糸の尻結びのとこばもって、右手で針に調子つけて、口からピシ ャッと重ね紙に折ちつくるたい。針の紙に刺さっとっとばじーっと、糸の尻ば引き上げて、 ささって来た紙ばチョーイと胸に抱き込むごつして取りょった。

針にささった紙がなかなか引き上がらんこつが、途中でスポーッと抜け落ちたり、パラパラ 落てて、一枚どんしか取れじやったりで。その紙引き上ぐる時みんなが、手のひらで床板ば、 バタバタ叩きながら、チョンカケ、チョンカケ、ちはやし立てよった。

あたしゃ不器用で、すぐースポーッち落して、持って行った紙やぢきー"ボンチャンアゲ"ら れて、そうしちゃ家に紙取り行くもんじゃけん、おばやいから、「まあた負けておいったの」 ち笑はれよったたい。ばってん針打でよう子供がけがしたりしょったけん、学校からしちゃ 出けんち止められたりしょったけんか、後にゃその遊びはせんごつなった。

  どうぼー遊びちもしょった。
  地面に、南瓜、胡茄、ちうごたるお野菜の絵ばいくつでん描くたい。そりば鬼が守っとる すきば見て、チヨーイと踏み消すたい、盗ったあ!ち云うて。そん時鬼からつかめらるると、 捕められたもんが鬼に成らにゃんたい。

  そげな遊びばしよるとば、うちから見付けられて、ほーんに叱られた。「いくら遊びごつで ん、盗人遊びてん何てんするもんじゃなか!そげなこつどんせんで、早よ勉強どんせらし!」 ち云うて。そしておっ母さんから、司馬温公の瓶破りの話しばきかされて、「かねて、チャン と勉強して、しっかりした者になっとかんと、いざち云うとき温公のごつ落付いて機転の利 くごつはなれん。盗人遊びどんしよっちゃ、そげなこつは思いもかけん」ち云うてきかされ たたい。


前のお話へ  戻る      次へ  次のお話へ