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    砂 糖
   
  お砂糖は岡野の三左衛門さんが、長崎さん藩米ば廻漕中に大風に吹き流され、支那の広東 に流れついて、上海経由で正徳三年帰っておいった時、あっちから製法ば習うておいったげ な。ばってんお砂糖ば実際に作り出しなさったつは、養婿の佐源次さんと又其養婿の喜四郎 さんと親子二人でそうにいろいろ苦心して、他国からも作り方ば習うたりして、作り出しな さったげな。白と黒とのお砂糖も出けて、殿様からごほうび頂いたりしなさったげな、そし て藩内にお砂糖のよう出くるごつなったげな。
のちには細川候にまで献上しなさった書付の残っとるちじゃったが、今どうなったもんじ ゃり。

  この辺じゃ笠九郎兵衛さんに藩から岡野に聞いて砂糖作るごつ命令のあったけん、九郎兵 衛さんの色々工面さっしゃったげなが、なかなか思うごつ行かず、のちのち迄砂糖作りば研 究するごつ遺言せらっしやったち云うこつじゃった。後に上妻あたりによう出来よったち云 うこつじゃん。

  あたしどんが子供の頃は村内にゃ砂糖きびどんよう作ってありょったが、ほんな子供の取 りもんぐらいば、唐芋床ん横のごたるとこに、何坪かぐらい作ってありょった。お砂糖しぼ るごつ餘計作る所は村でん少なかった。

  まあ二、三軒どんあっつろうか。水車で絞りょったげなたい。うちは黒砂糖は大っか桶に入っ とっとば買うといて、包丁で長う捧んごたるふうに切って小出しして、元桶は倉の中にどん 入れてありょった。

お砂糖によっては夏分だん湿気の来て、どろどろになって匙持って出しに行くこつもあった。 白砂糖も買うて来にゃ無かったもんじゃけん、こりゃあんまり沢山な買い置きはしとかじゃっ たたい。湿るもんじゃけん。かめにどん入れてなわしときよった。

  初手はよう二銭か三銭がつどんお茶碗どん持って、どこでんお砂糖ば買い行きよったごた った。ご飯にどん黒砂糖かけて食ぶるもんも居ったたい。かねてはお砂糖だんあんまり使や 居らじゃったもん。あんこにでん、塩あんどん作りょったけん。

何時か、おっ母さんの裏ん方に居んなさったげなりゃ、近所ん姑がかさんが、嫁女に云よ るげなもん「こないだん黒砂糖はどうしたかい」ち、そすと嫁女が「ありゃあんた、よど饅 頭んあんに入れて残りば煮メに入れたたい」ち云うたげな。すると、姑がかさんが「冗談(ぞ ーたん)のごつ、半斤も買うとったっに」ち嫁女ばおごるげなもん。

半斤のお砂糖ば、あんとお煮メに入れてどげなあんの出けたじゃり、「塩あんに使ふならそん くらいでんよかったかも知れんばってん」ち、おっ母さんの話しよんなさったが、昔ゃそんく らいのこつじゃったばい。


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