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    果 物
   
  果物な柿でん密柑、ひわ、其ほか色々なりょったばってん、生柿や消化(こなれ)ん悪るか ち云うて、半分位しか食べさせられじゃった。もちっと食ぶるち云うと、お祖父っつぁんの、 そげん食ぶると病気するち叱りよんなさった。干柿だけは、よか加減食べてよかりょった。 生野菜もあんまり食べさせなさらじやった。

みかんでん、ひわでん、ようと熟れたつば少ししか食べさせられじゃった。あんまりそげん じゃったけん、かえって少しよそで貰うて食べたりすると必ずどうかありよったたい。妙に 用心させて、抵抗力のなか子供に育つると、子供はかげで何するか分らんし、かえってわる か病気に罹って死んだりするけんち思うたけん、あたしゃ子供達にゃ食ぶるごつ食べさせて 制限せじやったたい。

  あたしがちっと大きうなって、友達どんと山てん野原に遊び行くごつ成ったりや、うちの 者の目のとどかんもんじゃけん、づばな、木苺、ギシギシの芽、山ぐみ、山饅頭、ち云うご たるもんば、友達連中が食ぶるもんじゃけん、あたしも時時食べよったたい。山饅頭ち云う て小粒の実の赤柴んとの紫に生るたい。

ありば食ぶると、舌でん口の端でん紫色に染まって、そげなわるさしたこつのわかるもんじゃ けん、帰り高良川の水で、手でどんどん口ば洗よった。おたがい顔見合うて、色のわからん ごつ成るまで洗うて、知らん顔して帰って来よったたい。そげなこっしちゃ、ようおなかこ わしよったたい。村ん子供達や、そげんとどん食べたっちゃ何ごつん無かもんじゃけん。

  そげな自然の果物てんなその頃までは山にでん野にでん一ぱい有りよったたい。しい、い っち、椋の実てんも、どりしこでん落てとるし、今の子供達よりその辺なよっぽど恵まれと ったたい。


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