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    五月の節句
   
  五月五日は菖蒲のお節句じゃけん、前ん日、菖蒲とふつ(蓬)ば摘んで来るたい。そして軒 先にそりばずーっと差し込んどきよった。魔除けち云うて。五日には菖蒲ばお風呂に入れて 菖蒲風呂ち云うては入りよったたい。尚武と菖蒲とかけたつじゃろたいの。軒先の蓬と菖蒲 にゃ昔から由来話のあるたい。

  男の子のおるうちは鯉幟ば立てよったが、初幟んとこ(家)だん、初手から鯉幟、吹流し、 幟旗立つるやらで、派手なこつじゃったたい。お茅巻(おちまき)巻いたり、柏餅作ったりし よったが、柏の木はこの辺にゃあんまり無かけん、みかんの葉てん、いどう(さるとりいばら) ん葉饅頭どん作りょった。

お茅巻も茅で巻くと、香もよし、巻くときもまきよかったばってん、美しか幅ん広か茅のこ の辺な少なかけん、下(三潴郡)ん方から菰ばお節句前に売り来よったけん、そり買うて、束 んなり井戸んなかにどん漬けとりよったたい。

お茅巻や四、五寸ばかりの細長か米の粉こねたダンゴば作って、幅の広か笹の葉に包んで、 そりば茅てん菰てんの根の方に包み込んで、包み込む時藺(い)ば一すじ二すじ握り込んどい て、包んだ先ばちょいとひねったごつ折って、藺で角のとこのきちんとなるごつきゆーっと 締めて、きりきり手元さん巻き返して締むるたい。

なかなかきちんとならんもんの。五本と五本ば組合せ背中合せにしてくびって、一尺余りの 小繩の両端にそりば結びつけて大釜でゆで上げて、うちはお台所の南の端の方に竹竿かけて、 それに繰り掛けて干しとったたい。昔はそりば兵糧にしよったつげなたい。お茅巻まきゃ面 白かった。賑やかして何人でん加勢人の多かったもんじゃけん。

  一夫のお節句の時やまあだお父っつぁんのおんなさったけん、交際も多かったし、初節句 ち云うこつで、どっからでんお節句んもん貰うこつが、貰うこつが、ほーんにたくさん貰う たたい。兜てん、首振り虎てん、飾り、てん。そっで男たちてん、出入の者達が山作って飾 ろち云い出したたい。

そりばってん、おとっつぁんの別府に入湯しとんなさったけん、帰んなさるまで待つごつ押 さえとったたい。帰んなさって、そげんごうほん貰うたなら山作らじゃこてち云いなさった けん、ソーラちばかり車引いて男どんが、山に柴てん羊歯てん取り行って、ごーほなしこ、 車に積んで帰って来たたい。

丁度その頃大工てん左官てん来よったけん、大工、左官も家修繕の方は放ったらかして山作 りにかかったけん、本職が居るもんじゃけん、どうして良う出けたこつが、みんな自分達の 方が面白うしてこたえんごたるふうで、ワイワイ云うて作ったたい。いろいろ山から持って 来た木てん羊歯てんば立てて、お茶の間から格子の間の境のにきゃ竹ば切って藪んごつ突き 立てて、大っかつ、小まかつの虎ば幾つでん置いたりゃ、作りもんでん気持ちん悪るかごたったばい。

他んとこの山にも布引っぱって、滝作ったりして、柴てん羊歯てんで崖のごつ作ったとこに、 鎧武者てん虎てん都合よう並べたけん、ほんに見物(みもん)じゃったばい。表お玄関前にゃ 飾り幟ばずらっと並べた。

  鯉幟の竿は、上妻ん方から長か杉丸太ば買うて来て、表は大っか木の立ち込うどるけんち 云うて、裏の方に立てたたい。吹き流しゃお父っちゃまの「おりが作る」ち云うて、下ん段 の倉んなかで、五間だんある長さに、引きのつよか和紙ば張り合わせて、色塗ったりして作 んなさった。毎日司令部から帰って来て作んなさるけん、あたしも手伝うて作ったたい。

のぼり竿の天辺(てっぺん)にゃ、うちに何時頃からじゃり大っか"ひょうたん"てん小まか"ひょ うたん"てんの、ごーほんあったけん、大っかつば真ン中にさして、ぐるりに小まかつばびっ しりつけて、千成びょうたんの馬印んごつしたたい。

そりに吹き流し、黒鯉、赤鯉ば幾つでんつけて、のぼり旗ばずらっと立てたけん、裏の八枝 の方から見るととてもよかったたい。ばってん吹き流しが紙のけん、いくら引きの強かつで ん、風で柿の木の枝てんに引掛って尾の方はすったり破れたたい。
そりにほんとは、裏のぼりち云うて、裏に立つるとはいかじゃったげなたい。

  恒ん時や二男じゃあるし、お父っつぁんと一夫と、前の年に喪(の)うなっとんなさったけ んで、そうたい死人のあっと一年間な、喪中でお祝い事はせんとがこの辺の初手からのなら いじゃったけん、1年先に延ばそかち云よったばってん、又すぐ子供の出くりゃ、上と下と同 じ年に成るとも、どうじゃろかでお節句したもんじゃけん、一夫ん時とは比べもんにならん しこ、少ししかお祝い貰わじゃったたい。

そっで「幾ら二番目でそげんち、云うたっちゃ生れなさった人にゃ初めてんお節句じゃけん、 飾らじゃこて」ち、茂平次のプンプンしながら自分の一人で、しいしい云うて、表土間に山 ば作ったたい。柴てん羊歯てん植えつけて、表土間と内土間の間のとこに欄間のあったけん、 そこに清正の人形ば飾って山にゃ滝のとこどん、布で作って養老の滝の人形てん、兜人形てん、 虎てん飾ったたい。

  一夫んとき、裏幟で悪るかったけんち、今度はお玄関と門の内の空地に、宮原の常さんから いただいた吹流しの五色の布製で口が半月形になつとっとば付けて、黒鯉赤鯉ばいくつでん つけて、のぼり旗立てたけん、やっぱ美しうなって、ようようお節句んごつなったたい。


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