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    高皇宮笹引き
   
  高皇宮(こーさん)にゃ笹引ち云う行事のあったたい。昔の源平の戦ば形どったもんち云う 話じゃった。川祭ち言うて、荀の出盛りの旧暦の三月二十三、二十四日の二日間じゃった。 後にゃ新暦の四月二十三、四日、になっとった。

  大っか竹に赤と白の紙ば切った短冊ば、あっちこっちにむすびつけて、お宮ん前のまっす くか大っか木に突き立ててきびりつけておりょった。二十四日が笹引きじゃった。前ん日は 夜燈(よど)で、いくらーん店ん出とって、明(あけ)ん日は笹引のあるけん店でん何でん片付 けよった。そうせんと笹引で、騒動ついてひっくり返さるるもんじゃけん。

  国分の若け者ンが二手に分れて、一組ゃ絵馬堂で、一組ゃ組立て式で二階の付いたユーラン、 ユーラン揺るる、ちょいと云うなら楼門のこたる家で、ちようぎり、てろ、せって、てろち 云よったごたる。其上でお酒飲んで、ドンドンチャンチャン云わせて踊ったり、はねたり大 さわぎばしよった。

午後二時すぎ頃、頃合見計ろうて、年寄どんが、年寄ちゃ老年の年寄りじゃなかもん、若け 者ンのうちの先輩の世話役ば年寄、ち云うとたい、その年寄が笹引の何でんば、指図すると たい。

指図して木にきびっつけとった大っか竹の根に太か藁綱ば結びつけて、二組の若け者ンが片 方はその綱、片方は竹の頭ん方ば引張って、みんな丸裸のふんどしひとつじゃん、後ぢゃ風 俗何てろで、警察から注意されて、うすか肌着ば着るごつなったばってん、どんどん引張 り合うとたい。ばってん引っ張り方にもきまりんあって、竹の頭ん方から境内ば出て道さん 行くたい。

どんどん引っ張ったり引戻したりして、ちっとづつ進うで行って、あすこの角の所さん行っ て、川ん方さん曲る角がきちんと曲っとっとに、竹は長かもんじゃけん、角んとこに引っか けて、石垣は、崩ずし、竹はひび割れするし、毎年あすこの角ん石垣ゃ積み直しよったたい。

角曲ってどんどん引っ張り合いながら、馬入川(樋江ン川)さん引き込んで水の中でどんどん 暴れて大騒ぎするたい。水ばザブザブはね散らかして川の中で一時(いっとき)押したり引い たりしてまた高皇宮の方に引張って行くたい。

  そりば三回繰り返しよった。三回そげんして水に浸った竹ば、こんだ、清水の八幡さんの小 まかお堂の横の、大っか幹でん何でん剥げたごつなった古るか檜、十何年か前までまあだ残 っとったあの檜に立ててきびりつけて、皆で"祝いましょう、ポンポンポン、祝いましょう、 ポンポンポン、祝うて三度、ポンポンポン"ち手打ちして終りょった。高皇宮さんの笹引きち ゃ近在に聞えて有名じゃったたい。

  どの家でん親類縁者、知合ばよびよったけん、ほーんにお客の多かったたい。二日がかり じゃけん、大概泊り客じゃった。

  笹引の時は馬入れ川の端の道は広かったけんその道てん、学校と藪が高かったけんその高 みてんに、びっしり人ん詰めかけて見よったたい。

そすと、川ん中から若け者ンどんが、誰彼なしに水ばジャブジャブ引掛くるもんじゃけん、 見物人どんも、キイキイ、ワァワァ云うて、賑やかかこつじゃった。川ん中じゃ川ん中で、 ジャブジャブ大暴れするもんじゃけん。

  うちゃ、まん前が高皇宮のけん、お客さんで家中はごった返ししよった。おごちそばどこ でん、こう作りよった。二日もあるもんじゃけん、団子も一度作ってん足らんけん、二度も 搗いたりしよった。

お客さん達やみんな、お重箱に団子てんおごちそば一杯詰めて何段でん提げて帰りょったたい。 その頃は丁度竹の子の時分(じぶん)じゃけん、おごちその主役はどこでん竹の子じゃったたい。

  お祖父っつぁんとばばさんと参宮しなさったとき、高皇宮の笹引の額ば高皇宮に上げなさ った。笹引のとき今田からの縁でお父っつぁんの従弟になる宮原の常さんに泊り込みで来て 頂いて、二週間位いかかって描いて貰いなさった額たい。常さんな日本画かきよんなさって、 のち久留米の女学校のあたしどんの絵の先生になっとんなさった。

  昔や参宮するとにお伊勢さん講ち云うて、講ば作って参宮費用ばずーっと前から貯めとき よったげな。そしてお金の貯ったとこで、講中揃うて参宮して帰って来ると、お伊勢参りが 出けたお礼や記念に、絵馬てん、燈籠てんば氏神さんてん組のお神に上げよったげな。

そっでお祖父っつぁん達や高皇宮の外に天神さんに在原の業平の束下りの"おきあげ"ば、上 げとんなさった。後に山下さんの絵馬堂さん来とりょったが崩れ落てて失うなっとるたい。 山王さんにも何か上げたばってん忘れた。

  笹引の額は高皇宮の山王さんに合祀されなさった後絵馬堂といっしよに山王さんさん行っ とったがそ(損)ぜ方のひどかけん、拝殿のなかに掛かっとる絵馬もあるけん、ありも拝殿の 中さん入れて貰えんじゃろかち云よったばってん、そんなりに成っとったが、いつか旭屋デ パートで絵馬展のあったとき出品したりゃ、なかなか評判の良かったけん、あたで社務所さ ん入れてあったが、大分そぜとる上、近頃誰かが雑布で拭いたけん、尚胡粉の落ちてようわ からんごっなったろうち云うこつじゃった。


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