SNK >> デジタルアーカイブ >> 初手物語


    大根川の由来、高良川のふとん洗い
   
  高良川の河原は広うして川石んごーほんありょった中ば、美しか川水ん流りょったばって ん、大根洗う頃になっと水の枯るるけん、大根川ち云うたい。そりゃ昔弘法さんの、この川 で大根ば洗よった者んに、一本呉れんかち云いなさったげなりゃ、その百姓がしわんつで、 上げじゃったげなたい。

そっで、こりから後(のち)や大根洗われんごつ水ば枯らすち弘法さ んの云うて川ん枯るるごつなったげな。そげな話しん中の弘法さんちゃあっちこっちでそげ な悪戯(わるさ)ばっかりしてさるいてござるもん。そりからが大根川ち云うごつなったつげ なたい。

  何せ水は美しうして、あたりも野山、竹藪でほんによかとこじゃけん、村ん者ばかりじゃ なし街ん方からも、夏になっとふとんの洗濯にホンによう来よったたい。

  車力に洗濯物ば一杯積んで、お弁当てん米てん釜んごたるもん積んで来るもんもありょっ た。米持って来たもん達や、川石でクド作って米洗うてそりばかけてご飯どん炊きよったた い。薪(たきもん)なすぐ川んそばに枯枝でん何でんご飯炊くぐらや、どりしこでん落てとる もんじゃけん、そして川でどんどん足でふみ洗いどんすっと広か布団側でん何でん、すぐ汚 れん落ててしまうけんで、川原の石の上に拡げとくとすぐ乾きよった。

布団綿まで持って来 て川原に干して、洗うて糊つけた半乾きの側(がわ)に入れて拡げとくと、綿入れまで何枚で んすぐ出来上りよったたい。何せ川原ん石や足の裏んあつか位い焼けとっとに、上からお天 道さんのかんかん照るもんじゃけん。川の南側の東からの出口のにきのこんもり木の枝ん川 の上さん差しかかっとったとこの根元から、湧水のしよったけん冷めたか飲み水ああるし、 さし出とる枝に、吊りこじょうけに炊いたご飯てんお弁当どん入れて、掛けてその辺の木陰 でどん休んどっと極楽じゃったたい。

涼しうして、川音どんがしてくさい。そっで町の人達 や、洗濯かたがたよか楽しみで来よったたい。女学校ん時の同級生の渡辺ますしゃん達も、 布団洗いちゅうてよう見えよったけん、そげん時や、お茶どん沸かして持って行ったりどん しよったたい。


前のお話へ  戻る      次へ  次のお話へ