「矢部村誌」発刊のあいさつ


釈迦、御前、三国に連なる山々に囲まれ、擂鉢状の地形をなした矢部村は、玄関口を日向神峡によって閉ざされ、孤立した地形にもかかわらず、八女地方の女神八女津媛を奉上して八女国の起源といわれています。また南北朝時代には懐良親王、良成親王両、征西大将軍の拠点と定められた大杣御所といったすばらしい文化と伝統を八女津媛神社、大杣御所として持っております。我が祖先がこのような貴重な遺産を継承されてきたことは、村民の皆様もご承知のとおりであります。想いを遥か大和時代から江戸時代に遡り、それぞれの時代で孤立した悪条件のなか、祖先の人々はどのようにして営々として生活を堅持されたものかを掘り下げて見るほどに、相互扶助の精神なくしては到底現在の矢部村は存在しなかったであろうと思います。

このことは高齢化するなかで、矢部村の行く先の基礎を成すものと考え、村制百周年を記念し、村誌の編集を企画した次第であります。

昭和十六年四月の大火災によって、私たちにとって貴重な書類その他を焼失し、資料皆無に等しいなか、村民の方々その他行政機関等の御協力により、十分ではないにしましても一応村誌ができましたことは村行政にとっても村民にとりましても意義深いことであります。

編纂に当たられました教育委員会および担当していただいた松尾文郎先生に対して心からお礼申し上げます。

清らかな空気、そして清らかな水、心を和らげてくれる緑と花、公害ひとつない平和で豊かな住み良い長寿の里として、多くの人々が夢見ている杣の里という理想郷矢部村を創り出すために、村民一人ひとりが本書を愛読され、誇りと信念を育む村誌としてお役に立つことを念願致しまして、発刊のことばといたします。

  平成三年一月

矢部村長 若 杉 繁 喜