矢部村の気候

気候の特徴を表す代表的な要素は、気温と降水量である。気温について日向神と福岡と比較してみるとグラフ1のようになる。

第1表から、矢部村の気候区分は九州の中央部特有の山地型気候区に含まれる。年平均気温は一四℃以下で、一月の平均気温は四℃以下である。十一月から四月まで霜がおり、十二月から四月までは雪がみられる。

特に矢部村の釈迦岳・御前岳は年平均気温が一二・〇℃より低く青森に相当する気温である。冬は三〇cm程度の積雪があり樹氷が見られる。矢部村の年降水量についてみてみると、二〇〇〇mmを越え、三〇〇〇mmを越すこともある。

昭和二八年の矢部川流域及び筑後地方に大水害をもたらした集中豪雨の時は、六月だけで一、六三二oも降っており、水害のあった六月の一ヶ月間でほぼ一年分に相当する降水があったことになる。(第2表)

また、グラフ3を見てみると、降水量の変化がほぼ一〇年周期で波状を形成している。昭和三十八年の豪雪の時は、大分県境の竹原峠で約一mの積雪を記録しているが、豪雪の年も豪雨と同じようにほぼ一〇年周期で巡ってきている。

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しゃくなげ、つつじ咲き乱れる大杣公園

しゃくなげ、つつじの咲き乱れる大杣公園


第1表 県内各地の気象要素の比較(山間部)
地名
標高(m)
年平均
気 温
8  月
平均気温
8  月
最高気温
1    月
平均気温
1  月
最低気温
年降水量
矢部
星野
黒木
335
220
105
13.9
14.7
15.6
25.5
26.2
27.2
30.4
30.9
32.2
2.9
3.4
4.5
-1.6
-0.8
-0.2
2,628
2,306
2,008
気温;℃  降水量;o

降 水 量 スクロールしてご覧ください
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月別雨量集計表

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気 温

日向神ダムより高屋城(城山)を望む

日向神ダムより高屋城(城山)を望む

一般に気候温暖であるといわれている八女地方であるが、矢部村は高地にあって、しかも内陸部に位置するため、四季の気温の変化とともに、夏冬の気温の較差、昼夜の気温の較差が同緯度地方に比して大きい。

たとえば、筑後市(羽犬塚)と八女市(福島)の年平均気温差はわずか三分にすぎないが、福島、矢部間には一度五分から二度の開きがある。ちなみに、羽犬塚は海抜一三メートル、福島は三一メートル、矢部は役場所在地あたりで三三〇メートルくらいである。

一般に山地における気温は、一〇〇メートル高くなるに従って〇・五〜〇・六度ずつ低くなり、また緯度約二〇〇キロメートルの相違によって約一度異なるといわれる。

矢部が低地にくらべて低温であるのは、主として土地の高低と地表の形態から生じる差である。特に山地においては地表の形態によって局部的に気温の差を生じ、集落の分布にもおのずから影響する。山岳、河川、森林等の地表の有様とこれにあたる風位、日射の影響が相互に作用して気候因子となって異なる気温を示すものであるが、山間部に点在する集落の気温が山麓の集落よりも温暖であるのは、冬夜の著しく冷却した寒気が、その重みで麓の方に流れ下って堆積し、暖かい空気が入れかわって山腹にとどまるからである。竹原、日出、黒木町平野等の集落が麓の集落よりしのぎやすいと言われるの は、そのためである。川岸附近の土地では、一般に河川に沿って風が吹く傾向があるから、冬季は寒冷であり、夏季には涼気を感じる。

雨 量

我が国の大部分は、季節風帯に属しているから、雨季と乾季に分かれている。四月から九月までの半年は、比較的雨が多く、他の半年は割合に少ない。四月から五月にかけて次第に夏の季節風が多量の雨を運んで太平洋方面から迫り、六・七月に入ってその極に達し、いわゆる梅雨現象を呈し、やがて次第に減少して季節風の交替期に入る。八月よりも九月に降水量が多いのは、南方洋上に発生する熱帯性低気圧による台風がもたらす雨である。

冬季の早期には季節風は北西の乾燥した大陸から吹き込むので、晴天乾燥した日が続く。この早期にも相当の雨量があるのは、乾燥した季節風が朝鮮海峡や東支那海を通り、対馬暖流上を経て湿潤となって筑紫、水縄の低い山の背梁を越え、この地方に押し寄せるからである。

矢部村の雨量は、八女地方の平地部にくらべて多い。年間降水量は、羽犬塚一七三〇・八ミリ、福島一七八九・三ミリ、星野二二二七・一ミリに対して矢部は二五六七ミリを示す。降水日数にして、羽犬塚一二九日、福島一四三日、黒木一三五日、星野一四四日に対して、矢部は一五二日を示している。三日に一日から一日半降ることになる。

この恵まれた雨量の豊富さは、他の気候因子と相互に作用して樹木の成長を促し、矢部村、星野村の杉材は全国的に有名である。

風 位

日本は、東南に海洋、西北に大陸をひかえているため、一年を通じて一定の風向が存在する。この風向は、夏と冬とではその風が概して反対である。すなわち夏は海洋より陸地に向かって.吹き、冬は陸地から海洋に向かって吹く。いわゆる季節風で、この風によって支配されている。しかし、矢部村は四方山に囲まれているため、この季節風に支配されることが比較的少なく、気まぐれに突風が吹くこともある。また、台風も山にさえぎられるために谷間への影響は少ないが、風向きに当たる山の斜面は強く影響を受ける。

霜 雪

樹氷の御前岳

樹氷の御前岳

霜の発生によっては、その年の農作物に大きな影響を及ぼすものである。特に果樹、茶、野菜、草花などにおいて著しい。多くの農作物にとっては、終霜が早ければ早いほどよく、晩霜は特にその影響が大きい。それだけに農家にとって霜についての関心と心配は大きい。江戸時代には霜による被害によって年貢の減免や年貢の前借りをした証文などが残っていて、霜害のひどさを物語っている。最近では、晩霜に備えて茶園などは、耐寒品種の改植や防霜ファンの設置など工夫をこらしている。

羽犬塚では、平均初霜は十一月四日で、四月十日の終霜まで一五〇日を数える。羽犬塚の終霜は福島より二日早く、星野より一一日、矢部より一四日も早い。矢部、星野の山間地が平地よりもかなりおそく、晩霜の被害が大きいことがわかる。

矢部村の平均初霜は十月二十四日で、終霜は四月二十四日、霜の期間は一八三日で、平地より三〇日くらい長い。

雪についても同様のことがいえる。矢部は平 地よりも降雪が多い。そのため山間部の家の屋根の勾配は平地部のそれより大で、積雪の過重を防いだり、雪のすべり止めをしているところもある。

平均初雪は十二月三日で、平均終雪は三月二十日、福島より二〇日、羽犬塚より一六日おそい。降雪の期間は一〇八日で、八女の平地より長い。

矢部村は、積雪のため、杉林に被害が出ることもあり、山かげなどは雪がとけず、凍結して農林業や交通の障害になることもある。