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    父の覚悟
   
  総体お父っつぁんな、自分一代でのうなす覚悟ばしとんなさったじゃろ、いつか両郡の方の大 地主の、いっちょん世間に出なさらん人のこつば話しょんなさったもん。「自分の財産守リにゃ、 あげんもよかろばってん、そっじゃ世間の役にゃ立たん」ち。其頃にしちゃ割りに考え方は開 けとんなさったふうで、農学校建てて、百性ば開けさせんならいかんち云うて、農学校(三井 農業学校)建つるこつでん何てん、そげな方面なこつに骨折りょんなさったばってん、何せ早 死しなさったもんじゃけん。

  お父っつぁんの長ご痛うどんなさるもんじゃけん、その頃の新興宗教が、あっち、こっちから、 どげん来てくるんなち云うたっちゃ、病院にでん、うちにでん押しかけて来よったたい。ばっ てんお父っつぁんの、「こりしこお医者さん達から手儘してもろて、死ぬならば死ぬ時の来 たつじゃけん、むりに長生きさせてもらうごつ神仏に願うたりしちゃ出けん。

そげなこつ願うとは、ほんとうの神仏の心にそむくこつになる」ち、しっかリ云い渡しとんな さったけん、お父っつぁんなもとより、うちんもんも一向相手にせんもんじゃけん、根負けし たじゃろ、とうとうのちにゃ来んごつなったたい。


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