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    初めての子供服
   
  伯母さんな手のほんに利いとんなさったけん、長崎にお行っとった時、洋服縫うとどん習う とんなさったふうで、白か木綿縮地に赤縞の幅の一寸ぐらいんとの入っとるとで、子供服縫う てやんなさった。緑てん紫てんの布で、ひだ取ったつば、襟廻りてん胸、手首、肩んとこへん に縫いつけてくさい。

ほーら明治の始まり頃の洋装婦人の洋服ば子供物にしたごたるもんたい。あげな子供服の西洋 の絵にもようあろがの、ありんごたる形たい、そして花のついて、つばの広か帽子てん靴てん ば、長崎から買うて来て貰うた。安兵衛に頼みなさったっじやろたい。靴は鳴革の靴てろち云 うて、穿いて歩く度に、ギューギューち鳴るたい。

そげんとば着たり穿いたりして、よか気持でさるきょったたい。服はちっと大っかつと二枚あっ たたい。大かたどこか親類辺にも着て行っつろたい。あの服は、火事にも焼けんで、今んとこ さん来てからまでもつづらにどん入っとったけん、ああたどんがいつか見つけ出して、乙姫さ んの家来のごたる服ち、笑うたこつのあったたい。

  髪はぐるりは切り下げて、真中ばこーう集めて三つ組みにして後さん垂らしとった。赤てん 鹿の子の布どんちょいと結びつけて。おたばこ盆ち云うとも結よった。真中から両方さん髪分 けて、両耳の上でくびって三つ組にして、そりば頭の上さん引きあげて、両方の三つ組ばよせ 合せ、赤か布でどんくびりょった。まあだ此頃はリボンちゃこの辺にや来とらじゃった。

  洋服は小学校の一、二年頃まで着りょった。後は何でん小もなって、着られんごつなったけ んよかったち思うた。小学校の上級生(三、四年生)になったりや日清戦争ん始まって、西洋 もんでん何でん見さかいなし、その頃はチャンチャンボーち云よったけん、洋服どん着て行っ てそげん云われんでよかったち思うたたい。


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