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    老の参宮
   
  昔しゃ参宮するときゃ別れじゃ何ぢゃち、大さわぎする習慣のあったけん、お祖父っつぁんと、 ばばさんと参宮しなさったときゃ、湯に行くちうて、うちば出なさったけん、出入の者どんでん、 いっちょん知らじゃったたい。お祖父っつあん達ゃ参宮して、松島まで行っておいった。

  東京ぢゃ、千両役者の芝居ば、見ておいったげな。東京ん芝居見て、こっちん芝居ゃ、やっぱ 見劣りするちお話しょんなさった。その内、手紙ん来たりで参宮しとんなさるこつのみんなに知 れたもんじゃけん、お留守見舞ちうて、あっちこっちからどんどん寄って来て、毎日毎日、夜昼 なし三味線太鼓で、お酒飲うで賑やかしょった。帰っておいるまで。

  下関から何時帰って来るち電報の来たけん、あたしゃそんとき小学校の一年生で学校に行っとっ たりゃ、いまからお迎いに行くけんち云うて、学校に呼び来たけん、早引して帰って、あたしゃ おばやいと、ふっちゃんの来とんなさったけん三人で、人力車に乗って久留米ん駅の前の旅館に 宿取ってあったけんそこさん行ったたい。宿の二階から駅の方見よったりゃ、茂平が帰んなさる ち話聞いて、もう遅れちゃおらんじゃかち、肌腰ぬいで走って来たつげなたい、どんどん走って来た。

  そんときあたしの頂いたお土産は、三月のお節句の内裏さんな、あたしがつは、久留米で買う たつで、おろよかったけん、京都から内奥さんば、買うて来てやんなさった。そりが今ある内裏 さんたい。ゴンタ(人形)さんの大っかつ小まかつ中にゃ口の中の舌まで、緋ぢりめんで張って あるとてんば頂いた。こっちにゃそげな念の入った人形てん無かけん珍らしかった。うちえのお 土産てん、あっちこっちえのお土産てんで、ごーほなしこ買うておいったたい。

  ばばさんな、なかなか負け嫌いで面白かとこんあったけん、参宮んときの事ばどげなお話しで んしょんなさった。「音羽の滝ちうけん、どげな滝かも思うとったりゃ、何のビキ(蛙)のショ ンベンのごたっとのチョロチョロ、低かとこから流れて来よった。」てん「加茂川ちうけんどげ んよか川かち思うとったりや、にごしんごたる水のちーっとばっかり川ん真ン中に流れよった。」 てん「鎌倉に行ったりゃ人力車夫の何か水んあっとこに連れて行って、この水は日本一の美しか 水じゃけん、お飲みになって見なさいち云うたけん、こげな水どん飲むと、おなかのせく(痛む)、 うちへんな、こげな水どんじゃなか、清水ちうて、どんどん湧いてくる、まあだよか水んあるち 云うたけん、車夫は呆れたごたる顔した」てんお話しなさった。水なら何せ清水んあるとこにお んなさるもんじゃけん、よそん水は馬鹿んごつ見えつろたい。


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