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    五郎の死
   
  お祖父っつぁんにゃ、今田からおいったおトシさんとの間に、キクヨさん、栄さん、五郎さ ん、百人(ももと)さんち四人お子さんの出けなさったげな。上二人ゃ大きうなんなさったばっ てん、下の五郎さんな生れて長うならんうち、死んなさったげな。真藤ん子にしちゃきりょう の良すぎるち、親類うちから云わるるくらい、美しかったげな。栄さんのもう四つ位になっと んなさったばってん、おっ母さん子で、五郎さんにゃ府中から乳母の来とったげな。

  或る朝、何時まっでん乳母の出て来んげなけん、部屋ば見なさったげなりゃ、こう布団の上 に、うっついとるげなもん、気分ばし悪るかつぢゃかち、思うたなりそのまゝしときなさった りゃ、やっば何時まっでん出て来んけん、そげん悪るかつじゃろかち、又のぞきなさったりゃ 乳母は居らんで赤ちゃんなちゃーんと死んどんなさるげなもん。

ほかにどうあった風でもなし、乳房で圧死しとんなさるちうこつじゃったげな。朝起きて見た りゃそげんじゃけん、乳母は途方に暮れて、うっついとったつじやろ、そうに心配して逃げた つじゃろし、死んだ者な、もう返らんもんじゃけんち、追手もかけなさらじゃったげな。

明治になるほんのちょいと前の慶応三年三月十九日で、生れなさって七十五日目じゃったげな。 百人さんも小もうして死んなさったげな、四つぐらいで……。


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