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    殿様の意地悪
   
  そりばってん、昔の殿様ちゃどげなこつでんなさりょったげなたい。
  ずーっと前のお家騒動てん百姓一揆の頃の殿様は、諌言して、ご前に平伏しとんなさる御 家老さんの首筋に、おそばのお火鉢から火箸で炭火ばつもうで、ちょーいとのせたりなさり ょったげなたい。どげん熱かったっちゃ、熱ッとも云うわけにゃ行かず、払い除くるこつも 出けず、平伏しとんなさる御家老さんな、どげんあんなさっつろにの。

  その殿様の頃、床島の堰の出けたりして、草野又六さんな、色々功績のあった人じゃった げなたいのちにゃ、田畑ば計り直したりしてじゃったげなが、殿様の為にゃ年貢ばよけい取 り立てられてよかったげなばってん、百姓は損になって、みんな又六さんば恨むごつなった らしうして、"木六、竹八、葭九月、草野又六今が切り時"ち云う文句迄出けとったふうで、 あたしが子供ん頃まぢゃ、よう聞きよった文句じゃったたい。

  そげなふうじゃったけんか、本当にあった話か、そりとん、そげんじゃったなら腹の虫ん 納まろにち、云う百姓の気持がそげな話作り出したもんじゃったじゃり、善導寺辺に、話継 がれとったらしうして、源ちゃん達んよう話しござったが。

  ある日、又六さんに殿様から、朝早うお城に上がるごつち、云うお達しのあったげなたい。 又六さんな、自分のかねての功績で、いよいよこんだ本侍(士分)のご沙汰んあっとじゃろち、 喜うで、朝んくろつからお城に上がってじゃったげな。お庭先で待っとくごつち云うこっで、 お庭先で、今か今かち殿様んお出ましば待ってござるげなばってん、一向お出ましのなし、 昼になり昼すぎなってん何のご沙汰もなし、おなかは空くし、とうとう夕方になって、飲ま ず食わずで、もう目の廻りかけて来たげなたい。

そけようようお縁側に殿様のお出ましなって、「又六、ひもじいか」ち仰しゃったげな。 「はい、ひもじうございます」ち又六さんの申し上げてじゃったげなりゃ、殿様は、「百姓も その通りだぞ」ち仰しゃつて、殿様は又そんなりつーっとこ殿の中さん入って行ってしまい なさったげなたい。


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