SNK >> デジタルアーカイブ >> 初手物語


    石 鹸
   
  ほんに石鹸ちゃあたしどんが子供のときゃなかったけん、米糠どん布に包んで使よった。
  洗い粉は小豆で作ってありよったが目のしまんけん顔洗いにだん良かりよった。その内病院 せっけんちうが出とりよった。ねずみ色の大っかつば切って使よったたい。そりばってん洗 濯にゃあんまり使よらじゃった。洗濯てんな灰のあくば使よった。竹灰てん、そば殼の灰が 良かちも云よったが、灰ば水に溶いて澄ませてその上澄ばとってそれに洗濯物ば浸けて洗よ ったたい。

「むくろじゅ」もよう洗濯に使よったたい。泡のこう立ちよったもんの。米のとぎ汁も使よっ た。のちの方には除虫菊てんの粉の殺虫剤が出けたり、あたしが女学校に行くころにゃ洗濯 石けんも花王石けんじゃっつろ、出廻って来たけん、のみ、しらみもだんだん、どこにでん おらんごつなったたい。

そりばってん今度の戦争中にあげな殺虫剤や、石けんのなかごつなったりゃ、またあげん、 のみ、しらみの出たたい。やっぱ石鹸ちゃ、なかと不自由かばい。


前のお話へ  戻る      次へ  次のお話へ