SNK >> デジタルアーカイブ >> 初手物語


    蜜 柑
   
  蜜柑な、河内蜜柑ち云うとは、国分の土地に合はんち云うこつで、金柑子てん夏みかんの 苗ば取って植えなさったりゃ、こりゃ大分よう生るもん、土地に合うじゃろ。

  ザボンもよう生るたい。いま国分に、金柑子てんザボンてんの古るか木のあるとは、お父 っつぁんの苗ば取んなさったときに、大方一緒に植えたつらしか。枇杷でん何でん、とにか く珍らしかもんな取寄せて見なさった。お父っつぁんな、ほんにそげな農芸方面のこつば好 いとんなさったばってん、いらんこつに祭り上げられて、あっちこっちしよんなさったもん じゃけん、植えたばっかりでなにんならじゃった。

こげな農芸のこつどんに身入れとんなさったなら、うちの為にも、世問のためにも、もちっ とは役に立ちなさっつろばってん。あたしも大体そげなこつが好いとったけん、お父っちゃ まに、百姓しまっしぅち云うたばってん、お父っちゃまの、「いや」ち云いなさるもんじゃ けん出けじゃったたい。そのうち、あたしゃ病気ばっかりするごつなって、百姓だん出来ん ごつなったたい。


前のお話へ  戻る      次へ  次のお話へ