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    御飯炊の女
   
  もとうちが織屋ばしよったころ、織子達にお茶出しよったたい。 夏はお粥炊いて、手桶に人れて、お漬物そえて、織屋さん持って行きよったたい。 柳川からツナち云うて大っか身体の女が来とった。うちの方てん織屋の方のご飯炊きばし ょった。

ほんに大ごつじゃったらしゅして、ご飯おつけ、お漬物、お煮しめばつぐやら出すやらで、 自分の食ぶる暇もなかごたった。気の強か女じゃったけん、よう誰とでん、喧曄しよった。
いつか男達がわざと時間遅らせて食べ始めて、ツナさんご飯、ツナさんおつけ、漬物ののうなった、 ちにくじんごつ、ワイワイ云うもん。

お漬物も山んごつ出して来て、ようよう自分も食べはじめたりゃ、「ほうツナさんの大飯食い」 「まあだ食よる」てん何てん、やかましう囃し立つるもんじゃけん、とうとう泣き出した事 んあった。そりからばばさんのお台所さん立ち上って行って、「忙がしう働く者ンな、おな かも余計すく、立ち上ってばっかり居らにゃんけん、食ぶる暇もなか、どげん云われたっちゃ よか、食べたかだけ食べっさい」ち云いなさったけん、他の者ンどんが黙ったけん、そりか らまた食べ始めたたい。

  いつか下ん段の梅の木の下の蕗が、こう踏み荒らされとったけん、どうしたもんじゃろか、 ちおっ母さんの云いなさったげなりゃ、ツナが織屋ん者どんが、梅ちぎりに来て踏んだち告 口したげなたい。そりば仙の女が織屋ん者どんに云うたげなけん、そりから織屋ん者どんが お台所さん押しかけて来て、「あたしだん織屋ん横ん梅ばちぎりよるけん、下ん段の梅までは ちぎりにゃ来ん、すらごつばっかりとつけて」ち、やいやい云うたけん大喧嘩になったたい。 いつでんそげな風で織屋ん者と喧嘩ばっかりしよったたい。

「いままで鬼になっとったけん、いまからも鬼なっとこたい」ち云よったばってん、ある朝 になって出てこんけん、どこに行っとるじゃろかち云よったりゃ、他の女がよんベコトンち 戸の棧の外るるごたる音のしょったごたるち云い出したけん、女の荷物部屋ば見せげやんな さったりゃ、荷物が、なにん無かごつなっとった。

矢張(やっぱ)居づろうなって逃げ帰ったじゃろ、呼び行かじゃこて、ちや云うたもんの、ま た帰って来てん、喧嘩始むるじゃろけん自分も居づらかろけん、もう知らん顔しとった方が よかろ、ち云うて、とうとうそんなりしとったたい。ほんに人数の多かとこの女もきつかも んばい。

  うちは七升炊きてん、まあだ大っか釜でん使よったが、七升炊まで位女が力の強かつは一 人で抱え降ろしたりしよった。何せ大釜てん七升炊の鍋釜ば毎日抱えにゃならんけん、ご飯 炊きは力持ちで大女でなからにゃ出けじゃったけん、ご飯炊きがやめどんすっと後さがしが 大ごつじゃった。
いつか上津荒木と国分との境の辺から来たオツルち云う娘は年ゃまあだ十 六じゃったばってん、とても上手に大鍋てん釜ば下ろすけん、どうしてそげんよう下ろすじ ゃろかち見よったりゃ、ちょいと膝ばクドに掛けて下ろすげな、鍋釜下ろしにも、ちゃんと こつのあるとたい。この娘は嫁入りまでうちに居ってそこんとこのほんな近所に嫁入ったた い。


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