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    毎日の食事
   
  うちへんな大体質素に手堅うして来たとこじゃったけん、食ぶる物も着る物も何いっちょ 贅沢なこつはしよらじやったばってん、その頃の村の一般の生活に比ぶっと、やっぱ、だい ぶん贅沢ち云うこつになりょったらしか。
そっでん、今んこつ考ゆっと、ほんに食べ物でん 何でんおかしかごたるこったい。

  米は何時でんうちで搗いた黒か米ば食べよった。お正月、お盆、お祭、お節句、ご法事お 客、のごたるときゃ水車にやって、真白か米んごはんじゃったけん楽しみじゃったたい。か ねてはその黒か米に粟ば入れよった。そのころ粟はどこでん入れよった模様で、畑の多か合 川村辺な、ご飯にお茶かくっと米粒ん出て来るげなてん云よったが、そげんごーほん粟入れ よったらしかたい。

この辺も大分入れよったごたるふう、うちも、えー加減に入れとりょった。よそは子供てん 勤め人てんのお弁当にゃ、そけんとのおろ入っとる下の方から詰むるてんち話聞きよったが、 うちは、そげなこつはしてやりゃおんなさらじゃった。

  そりばってん、其頃でん役所勤めてんして、月給でくらしよるとこ辺なもう都会風になっ とったじゃろ。いつかうちに郡役所の人の見えた時、いつでんの黒か米の御飯でお昼ば出し たりゃ、その役人さんがおかえしよった女に、「ほんに地主どんちゃ不自由なもんない。うん と米は持っとっとに、こげな黒かめしどん喰うて、うち辺に来て見らさい、鼻ん下ん光るご たるめしくよるばい」ち云うてじゃったげな。北野辺に住んでござる風じゃった。

  後には粟ばだんだん作らんごつなって、ごはんに入るるだけの粟ば、買うてさるくとんお おごつになりましたち云うけんで、そんなら麦ば入れじゃこてち云うて麦ば人れよったが、 いまんごたる美しか押麦てんなありもなあにんせんもん。
裸麦ば一ぺん炊いて水で洗うと、 どろどろする汁の出るけんその汁ば捨てて水に漬けといて、米に混ぜて炊かにゃんけん粟よ り手間の掛かりょったたい。

  朝お膳に座ると一番にお茶と梅干ば頂きよった。一日中怪我ん無かごっち、昔からのしき たりじやったらしか。そりゃ昔、天神さんの太宰府に流されて下っておいりよる途中、どこ かにちょいと休みなさった時そのうちの者がお茶と梅干ば天神さんに上げたげなけん、天神 さんのそりば上りよるうちに、後追うて来た刺客が行きすぎて、天神さんば見失うて、天神 さんな難ばのがれなさったげなち云う云い伝えから出たこつげなたい。

  朝は味噌汁(おむしのおつけ)にお漬物、梅干どんじやった。真ン中の台に小まか籠に入れ て卵どん置いてありよったばってん、あたしゃそりば自分で取って食ぶるちゅうこつはせじ ゃった。せじゃったち云うよりしきらじゃったっじゃろ。誰かが取ってやんなさるけん、そ すと食べよったたい。

今から思うとおかしかごたるばってん、お行儀ばやかましう云はれよったけん、自分で勝手 に取ってがぶがぶ食ぶるてん何てんな、思いもよらじゃったたい。がちゃがちゃ云はせたり、 口音ばちゃぷちゃぷ云わせたり、なめたりするとお祖父っつぁんからほんに叱られよった。

  一人一人箱のお膳じゃった。どこでんな箱のお膳に、食べたなりのお茶碗類ば入れて次の ご飯の時、そんなりで又食べたりしよったばってん、うちは一ぺん一ぺん女達が下げて、ち ゃんと洗うて納(なお〉しよった。そげなちょっとしたとこが、よそとは違うとったじゃろた い。

  あたしゃ、いかの嘴てん、鯛の首のにきにある骨と尾の方にある骨ば、とんび、鍬、鎌、 てろち云うて取っといて、その箱お膳にガラガラ人れとったが、そげんとは捨てられじやっ た。洗うてどんまた入れてあったじゃろ、臭うなったり、かぶん生えたりゃしよらじゃった けん。

  昼も何やらお煮しめどんじゃったじゃろ。夜さりはまた、だんご汁が一年中つきもんじゃ った。ご飯の前にそのだんご汁ば必ず食ぶるとたい。おむしのおつけ(味噌汁)に時々のお野 菜の芋、大根、蕪菜んごたっと、夏豆(そら豆)、蕗、干大根、芋がら、ちゅうごたるもんた い。そりが七升炊きてん時にゃまーだ大っか鍋で炊くもんじゃけん、ほーんにおいしかった。

  ばってん時々あたしがどうか云うと、お祖父っつぁんの、「一年中おむしのだんご汁食べ通す とこは、この村にでん他にゃ、二、三、軒どんしかなかばい、ありがとう思うとかにゃ」ち 云よんなさった。

だんごも今の「すいとん」てろち云うごたるだらだらしたもんじゃなかもん。ちやんとこね鉢 でこねて、打ち台ち云うとで広げて、めん棒で伸ばしたつば、丁度よか加減につみ切って入れ よったけんおいしかりょったばい。何せ米の勘定んためにそげんしよったつじゃろたい。おさ い(おかず)には、お煮しめてん、お浸してん、酢の物てん、何やらありよった。


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