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    髪かたち、服装
   
  細見校長先生が洋髪ば好きなさらじゃったけん、倉本先生は、わざわざ髪結さんば雇うて 髪結の稽古ばしなさったげなけん、銀杏がえしばほーんに立派に結うて来よんなさった。も ともと髪の美しかったけん、ほんに美しうでけよった。土岐先生と同じ下宿に居んなさった。

  土岐先生の髪はちょっと癖のあるごたったけん、倉本先生んごつ美しうは結い上りゃおらじ ゃった。
倉本先生は歩き方でん、内股で、チョコチョコした歩きぶりが、ほんに奥さんち云 う感じじゃったが土岐先生は性格がテキパキして、あっさりした男んごたる気風でさばけよ った。倉本先生とはまっで反対のお人じゃったがほんに人気のあったたい。

  生徒もみんな銀杏がえしば結うて来よった。朝、髪結うとが大ごつのけん、前の晩に結う て朝は髪ば撫で付くるだけにしよったたい。

  そりばってん校長さんがいくら洋髪はいかんち云いなさったっちゃ、世間が洋髪になって 行くもんじゃけん、あたしどんが卒業したあと頃から先生でん生徒でんぼっぼつ洋髪に成っ て行ったたい。

  着物な長袖ん着物で、袖はそげん長こうはしよらじゃったばってん、帯は貝の口にようみ んな結びよった。学校ん行き帰りはそげん着物に帯して行きよったけん、紡績に行きよる者 と、こりじゃ見ちがえらるるてん云うてみんな不服じやったたい。

女学生ち云うと、ちーったぁ鼻の高かったけん、女工と見まちがえらるる服装が不服じゃっ たったい。
学校に着くと帯はぐるぐる巻きにしめ直したり、のけてしもうて小まか下地 締めばぐるぐる巻きしたりして袴ばはきよったたい。その袴は木綿縞ん袴たい。

  学校に来ると教室の隅のとこにある三角戸棚から袴出してはくし、帰る時や脱いで、ちゃ んと畳うでなわし込うで帰りょったが、なかにゃ不精者もおって、脱いだ袴ばぐるぐる丸め て、向うの方からどんボーンち投げ込うで行ったりしよったが、そげんとは翌日すったりシ ワばっかりたい。

あたしどんがおるうちにも、東京てん上方ん方からてん転校して来た人たちゃ、もう、二、 三人海老茶の毛の袴ばはいてありょった。
あたしとオシンしゃんと、稲益さんと三人で 写っとる写真な、あたしゃ縞ん袴ばはいとるばってん、オシンしゃん達や海老茶てん青てん 毛の袴たい。

ありゃ軍人さんのお嬢さん達のつば写真に写るときだけ借って来たつじゃん。履物なみんな 下駄てん草履てんじゃった。雨ん降るときゃ竹ん皮緒の高ぼくり(高下駄)どん履きよった。
ばってん肥前の人ん中にゃ面白か様子して来る人達んありょった。竹ん皮の草履ば、パターン、 パターンち云わせて、ちょいと変っとりょった。たいがい良かとこのお嬢さん達じゃっつろけん、 竹ん皮草履ち云うとはその辺のそうした風俗じゃっつろ。


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