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    山王さんの"よど"
   
  九月にゃ山王さんの"よど)じゃった。国分の村の氏神さんじゃけん、国分中が、よど饅頭 どん作りょった。麦粉てん米ん粉てんば捏ねて、塩餡てん、砂糖餡てんば包うで、いどろ(さ んきら)ん葉てん、みかんの葉てんばつけて蒸しよった。

まあだ暑かけんお砂糖のきいとらんと、すぐねまりょったたい。そっでうちは甘うしよった。 なつ豆の餡どん入れよったとこもありょった。初手は小豆餡より、夏豆(そら豆)餡の方が多 かったかも知れんたい。

  よど饅頭はくさい、うちでは、もち米と、うるち米とば六分四分にまぜたつば、洗うて、 しようけ(笊)に上げて、かしの来たとこで臼で搗きよった。

トンカツン、トンカツンち云わせて、杵についた粉ば一ぺん臼のへりにカツンち云わせて、 落しとかんと、外さん粉の飛び散るけんたい。その粉ばようこねて、布に包んで、かまぎに 入れて、足でさっさと踏まにゃならんもん。

あたしゃそげなこつするとが好いとったけん、どんどん踏んで加勢しよったたい。おっ母さ んと、おもとと二人が団子の粉こねが上手じゃった。

  山王さんのお宮じゃいろいろな物どんが出たりしよった。するめのかば焼、肉桂水、かん(か る)めら、綿菓子てん、ままんたんごのおもちゃ、おもちゃの笛、太鼓、ラツパ、刀てんちゆ うごたるもんどんがありよったたい。

  遠眼鏡ちも覗きちも云よった見世物のごたっとのあったたい、今の紙芝居の大がかりんと たい。荷車に大っか箱んごたる胴体のついて、その胴体に七つ位も"覗き眼鏡"のついとっつ ろか、いくらか銭ば出すとそりば覗かするとたい。

胴体の中にゃ広うか板じゃり何じゃりに、紙貼ったつに絵ば描いてあって、そりば二人位で 向い合うててん、一人てんで、パターン、パターン竹むちば叩いて節つけながら、その場面 場面の絵ば次次にさしかえながら物語りばするとたい。

よう帰去来(ほととぎす)てん金色夜叉てんがありよったたい。その他浪花節てん、手踊、に わか、芝居んごたるもんどんが演舞場でありよったが、演舞場は大正になってからで、初手 はむしろ舞台じゃったたい。"よど"も親類へんからのお客のありょたたい、


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